この闇と光(角川文庫) あらすじと感想

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あらすじ

戦いに敗れた王の娘、盲目の姫・レイアは塔の中に閉じ込められ、外に出ることなく生きていくことになる。彼女の身の回りに存在する人間は二人。父たる王と侍女のダフネだ。王は優しく、塔の中のレイアのことを溺愛し、目が見えないレイアのために本を読み聞かせたりしていた。一方で侍女のダフネはレイアを虐待とはいかないまでも、邪険に扱い、時には「殺してやる」と脅し、怖がらせていた。ダフネは次第に遠ざけられ、レイアは優しい王と二人だけの時間を過ごすことが多くなる。レイアは盲目ながら、父の読み聞かせてくれる本から知識と豊かな感受性を手に入れ、年齢には不釣り合いなほどの賢さを得る。依然として彼女は塔の中に閉じ込められたままだったが、優しい父と本に囲まれて満ち足りた日々を過ごしていた。

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ヴァンパイア・サマータイム(ファミ通文庫) 石川博品 あらすじと感想

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あらすじ

まず設定。ヴァンパイアが当たり前のように受け入れられている社会です。彼らは実際に血を飲んだり、夜にしか行動できなかったりと、おきまりの吸血鬼的特徴を備えていますが、血はパックに保存されたものを飲み、学校は夜中に行きます。つまり何の支障もなく、人間とヴァンパイアが共生しているのです。実際ヴァンパイアといってもほとんどの部分は人間と変わりありません。血を飲む、日光を浴びられない、あとはニンニクが苦手、くらいかな。

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もらい泣き(集英社文庫) 冲方丁 感想


『もらい泣き』は筆者冲方氏が経験したことや、耳にした体験談など、「実際に起こった泣ける出来事」を30編ほど収録した短編集になります。ノンフィクションだからといって、小説と比べて地味な話ということはなく、ちゃんとじんわりとした感動を味わうことができます。(あくまで「じんわり」なので表紙の娘みたいにわんわんなくものではないと思いますが)

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オーデュボンの祈り(新潮文庫) 伊坂幸太郎 感想


振り返ってみると自分の読んだ伊坂幸太郎作品もこれで5冊目くらいでしょうか。
初めて読んだ伊坂小説は『重力ピエロ』でした。しかしまあ、あの時は正直「なんか気に入らないなあ…」と読了後、もやもやした気持ちを感じていました。
伊坂幸太郎の小説といえば、突き放すような、そっけないような、冷たく淡々と進むような独特の文体で、なんとなく「おしゃれだな」というイメージを最初は持っていました。
このおしゃれさというのは、スタバでマックを開いている大学生とか、インスタグラムに投稿されたくすんだ写真とかと同質の雰囲気のことでして、そういたものとは正反対の自分とは相容れない…要するに「なんか鼻につくなこれ」という感じです。
 が、この作品や『ラッシュライフ』を読んでそういった負のイメージはある程度払しょくされました。こじゃれた雰囲気でけむに巻き、肝心のストーリーは弱い…とまあ、ここまで行くといいすぎですが、ストーリーを作ること自体にも才能があることがわかり、この独特な世界観を楽しむことができるようになってきたのです。
 この作品は設定からしてシュール極まりないものです。舞台は江戸時代から「鎖国」を行っている荻島。日本のどっかの都会で銀行強盗に失敗した主人公はなんやかんやでこの荻島に訪れ、しゃべるカカシに出会います。比喩ではなく本当に人語を発するカカシです。このカカシ君は未来を予言することもできちゃったりするのですが、何者かに殺されてしまいます。「あれ?あいつ未来予言できるのに何で殺されたん?」的な疑問を解き明かそうとしているうちに第二の殺人も起こり、さてその犯人は…そしてこの島の秘密とは…
 とまあ、ざっくり概要を説明するとこんな感じでしょうか。つっこみどころが多いような気がしますが、この寓話的な世界観で「殺人事件」というあまりにもリアルでおどろおどろしい出来事を解き明かすっていうストーリーがまず気に入りました。そして何より今作はキャラクターがすごいです。島の住人たちは「しゃべるカカシ」に劣らず強烈なキャラクターばっかりだし、悪役として描かれる「城山」という人物も、これがまあ悪の化身って感じで本当に生理的に嫌悪感を抱くような野郎ですが、ものすごい魅力的なんですよね、悔しいことに。
 全体的に夢の中の出来事のようなふわふわした感じのする不思議な小説なのですが、ミステリらしいしっかりとしたロジックで、それでいて設定を生かした推理もあり、現実と非現実が交錯しているような何とも言えない余韻も得られる小説でした。
 本当に、毛嫌いせず伊坂作品をもっと読んでいればよかったです…

黒冷水(河出書房新社) 羽田圭介 あらすじと感想


§あらすじ
兄と弟の冷たい戦争。泥沼の兄弟喧嘩。あらすじを纏めてしまうとこんな感じでしょうか。物語は基本兄の視点から展開されていきます。兄はやや独善的でプライドが高いですが、冷静で頭の回るタイプであるのに対し、弟は比較的幼く、直情的な性格です。弟は兄に対し劣等感と恐れを抱いているので、敵意をもっていながら兄の部屋をあさりエロ本やらavやらをあさるという方法でしかそのフラストレーションを発散できません。兄はそんな弟の子供じみた犯行に苛立ちながらも相手にしていませんでしたが、こちらも怒りは蓄積されておりまして、言葉に言い表せないほどの激しい憎しみを抱くことになります。この憎しみを兄は『黒冷水』と呼び、弟に対する復讐を決意しました。

§感想
 あらすじを読んでいただければわかるように、この小説は壮大な兄弟げんかです。双方心がいい感じに歪んでいるので、見ていて、愉快な、明るい気持ちになるということはありませんでした。自分には兄弟姉妹がいませんが、どうしてもそりが合わない、見ているだけでむかつく知り合いというのはいるので、そんな奴が身内にいるなんて可哀そうに…と少し同情しました。読んでいると胃が痛くなるような展開の連続ですが、不思議とそこまで暗い気持ちにはなりませんでした。兄視点で物語は進むので、弟がとにかく悪いように書かれているため、復讐されている姿を見るとむしろ痛快さを感じるからでしょうか。(基本弟はやられやく)
 さて、ネタバレになるので詳しく話すことはできませんが、この物語がクライマックスに向けて進んでいくにつれて誰しも「ん?」と徐々に違和感を感じていくようになると思います。自分は単純に強引に話を纏めたがっているのかなあ、という印象を受けただけですが、驚くべきどんでん返しが隠されていました…二重で楽しめるようになっています。
作者はあの「スクラップアンドビルド」で有名な羽田圭介さん。なんとこれを執筆した年齢は17歳ということで…とんでもない化物ですね。Q様で微妙な立ち位置にいる人という認識しかなかったので見直しまくりました。
 余談ですが兄が行った復讐で一番えげつないな、と思ったのはTVを遠隔操作して、4両親の目の前で弟の自〇映像を公開したことですかね…(しかも編集済みダイジェスト版)
こんなんされたら自分は生きていく自信ないですね…この時ばかりは本気で同情しました。
 

百瀬、こっちを向いて。(祥伝社文庫) 中田永一 感想


今作は4編の恋愛小説が収録された短編集です。どっかで聞いたことあるタイトルだなーと思って手に取りましたが、どうやら映画化していたらしいですね。短編集なのであらすじは飛ばして感想にいきます。

§感想
さて、自分は中田永一という作家の本を読むのは初めて…と思っていたのですが、1作目にして表題作『百瀬、こっちを向いて。』を読むと、文章に強烈な既視感を感じました。初めはどことなく漂うラノベ臭さに反応しただけかと思いましたが、調べてみるとこの中田永一という名前は乙一の別名義ということがわかりました。
確かに主人公の異様な卑屈さとか、ヒロインの描き方とか、乙一の作品だとわかる符号はたくさんありました。むしろなぜ気づかなかったのか…と勝手に悔しい思いにさいなまれております。
乙一というのは独特な作家だと思っております。もともとラノベ畑出身の方というだけあって文章やキャラクターの作り方には(良くも悪くも)ラノベっぽさが感じられるのですが、話全体を見るとちゃんとした「小説」になっているのです。(決してラノベを下に見ているわけではないです。)
自分の勝手な解釈ですが、小説とラノベの違いはストーリーがキャラを中心に回っているか、いないかだと思っています。前者がラノベ、後者が小説です。乙一氏の作品は登場人物が記号的ともいえる強烈なキャラクターを持つという部分でラノベ的ですが、物語をキャラクターに頼りすぎていない、という点で自分はすごさを感じます。
 …抽象的すぎる話になりましたので、話を本題に戻します。
今作に収録されている4編いずれもみずみずしい青春小説です。みずみずしいという言い方をしましたが、それは見方を変えれば青々しく、痛々しいものでもあります。どの作品もねじれた特異な設定ですが、このみずみずしく青々しく痛々しい「青春」を克明に描いているという素晴らしい共通点があります。あとがきでは「サイダー色」という言葉で今作を形容していましたが、さわやかでありながら甘すぎず、かすかに苦みが残る、という点でぴったりな言葉に感じられました。
 正直いって自分はラノベ臭い文章、セリフの掛け合いはあまり好きではありません。なんとなく恥ずかしくなってくるので…。なのでこの作品を読んでいるときもページをまくる手が鈍ったシーンが割とあります。それでも物語を最後まで読むとそんなこっぱずかしさなんて忘れてしまい、ただただ計算された切なさに浸ることになり…結局「この話好きだわ」となるんです。
 例えば表題作『百瀬(以下略』について。まずはその設定。クラスの輪から外れ、陰気で女子と縁のない学校生活を送る主人公。そんな主人公に彼女ができます。しかし、この交際はとある事情で始めた演技であり、互いに好意を抱いているわけではなかった…
 とまあこれだけでも自分が感じた『ラノベ臭さ』を感じてくれる人もいると思います。
が、作品の本質はそんなところではありません。思春期らしい葛藤、恋愛をすることの切なさ、そして登場人物たちの生き生きとした感情の動き…恋愛小説に必要なものがすべてそろっていると思います。恋愛小説を毛嫌いする人にも読んでもらいたい作品です。
 特に高校生とか、若者。等身大の魅力的なキャラクターたちにきっと感情移入できると思います・

フェルマーの最終定理(新潮社) S.シン あらすじと感想


§あらすじ
フェルマーの最終定理という言葉を聞いたことはあると思います。僕は残念ながら文系チンパンジーですので、数学というものはできるだけ避けて生きてきた人間です。しかしこの定理のすごいところはそんなおサルさんなぼくでも設問そのものは十分りかいできるというところです。

 フェルマーの最終定理フェルマーのさいしゅうていり、Fermat's Last Theorem)とは、3 以上の自然数n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない、という定理のことである。wikipediaより引用)

うーんわかりやすい。難関大学の受験数学に出ていても違和感を感じないレベルですね。
しかしこいつがとんだ曲者でして、フェルマーが発問してから350年、世界最高の頭脳と情熱を持つあまたの数学者たちをもってしても解かれなかった難攻不落の問題なのです。歴史上の数学者はその難易度の高さゆえにこの問題に惹かれ、絶望に突き落とされてきました。本著はそんな数学者たちの葛藤と、350年の戦いに終止符を打ったアンドリュー・ワイルズという男が打ち破った様々な苦難を描くノンフィクション小説です。
 ワイルズはなかなかワイルドな人生を歩んでおりまして、10歳にしてフェルマーの最終定理にひかれたこの男は、(この時点でおかしい)数学者となり、誰にも地震の研究を明かさず、たった一人でこの難問に立ち向かいます。(通常数学者たちは頻繁にコミュニケーションをとりあうのが普通でした。)長年の努力が実り、ワイルズは一度は求めていた栄光を手にします。しかしその先にあったのは”論理破綻”という地獄でした…

§感想
テーマは「数学」というこれ異常ないほどシステマティックなものなんですけど、ストーリーはなかなか熱いです。フェルマーの最終定理が証明するにはありとあらゆる数学の理論やテクニックが踏襲されており、過去の学者たちがどのようにアプローチしてきたのか、(そして失敗してきたのか)という歴史が描かれており、ワイルズが350年の数学者たちの無念を晴らす瞬間は感動的です。失敗した方法もワイルズによってしっかり活用されているので、そのへんもなんだか”熱い”展開ですよね。
 正直チンパンの僕には数学的素養を理解するのは骨が折れました…文系諸君は少し覚悟して読まなければならないかもしれません。ただこの一人の天才の栄光と挫折、そして復活は一見の価値はあると思います。数学の天才であり、数学にすべてをささげた彼の生きざまは凡人たる私たちに希望のようなものを与えてくれる気さえするのです。
 ちなみに有名な話ですが、当のフェルマー氏は自分がたてたこの問いについて、
「この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」
というかわいい負け惜しみみたいなことを書いていますが、性格的にちょっとアレなひとだったみたいです。