黒冷水(河出書房新社) 羽田圭介 あらすじと感想


§あらすじ
兄と弟の冷たい戦争。泥沼の兄弟喧嘩。あらすじを纏めてしまうとこんな感じでしょうか。物語は基本兄の視点から展開されていきます。兄はやや独善的でプライドが高いですが、冷静で頭の回るタイプであるのに対し、弟は比較的幼く、直情的な性格です。弟は兄に対し劣等感と恐れを抱いているので、敵意をもっていながら兄の部屋をあさりエロ本やらavやらをあさるという方法でしかそのフラストレーションを発散できません。兄はそんな弟の子供じみた犯行に苛立ちながらも相手にしていませんでしたが、こちらも怒りは蓄積されておりまして、言葉に言い表せないほどの激しい憎しみを抱くことになります。この憎しみを兄は『黒冷水』と呼び、弟に対する復讐を決意しました。

§感想
 あらすじを読んでいただければわかるように、この小説は壮大な兄弟げんかです。双方心がいい感じに歪んでいるので、見ていて、愉快な、明るい気持ちになるということはありませんでした。自分には兄弟姉妹がいませんが、どうしてもそりが合わない、見ているだけでむかつく知り合いというのはいるので、そんな奴が身内にいるなんて可哀そうに…と少し同情しました。読んでいると胃が痛くなるような展開の連続ですが、不思議とそこまで暗い気持ちにはなりませんでした。兄視点で物語は進むので、弟がとにかく悪いように書かれているため、復讐されている姿を見るとむしろ痛快さを感じるからでしょうか。(基本弟はやられやく)
 さて、ネタバレになるので詳しく話すことはできませんが、この物語がクライマックスに向けて進んでいくにつれて誰しも「ん?」と徐々に違和感を感じていくようになると思います。自分は単純に強引に話を纏めたがっているのかなあ、という印象を受けただけですが、驚くべきどんでん返しが隠されていました…二重で楽しめるようになっています。
作者はあの「スクラップアンドビルド」で有名な羽田圭介さん。なんとこれを執筆した年齢は17歳ということで…とんでもない化物ですね。Q様で微妙な立ち位置にいる人という認識しかなかったので見直しまくりました。
 余談ですが兄が行った復讐で一番えげつないな、と思ったのはTVを遠隔操作して、4両親の目の前で弟の自〇映像を公開したことですかね…(しかも編集済みダイジェスト版)
こんなんされたら自分は生きていく自信ないですね…この時ばかりは本気で同情しました。
 

百瀬、こっちを向いて。(祥伝社文庫) 中田永一 感想


今作は4編の恋愛小説が収録された短編集です。どっかで聞いたことあるタイトルだなーと思って手に取りましたが、どうやら映画化していたらしいですね。短編集なのであらすじは飛ばして感想にいきます。

§感想
さて、自分は中田永一という作家の本を読むのは初めて…と思っていたのですが、1作目にして表題作『百瀬、こっちを向いて。』を読むと、文章に強烈な既視感を感じました。初めはどことなく漂うラノベ臭さに反応しただけかと思いましたが、調べてみるとこの中田永一という名前は乙一の別名義ということがわかりました。
確かに主人公の異様な卑屈さとか、ヒロインの描き方とか、乙一の作品だとわかる符号はたくさんありました。むしろなぜ気づかなかったのか…と勝手に悔しい思いにさいなまれております。
乙一というのは独特な作家だと思っております。もともとラノベ畑出身の方というだけあって文章やキャラクターの作り方には(良くも悪くも)ラノベっぽさが感じられるのですが、話全体を見るとちゃんとした「小説」になっているのです。(決してラノベを下に見ているわけではないです。)
自分の勝手な解釈ですが、小説とラノベの違いはストーリーがキャラを中心に回っているか、いないかだと思っています。前者がラノベ、後者が小説です。乙一氏の作品は登場人物が記号的ともいえる強烈なキャラクターを持つという部分でラノベ的ですが、物語をキャラクターに頼りすぎていない、という点で自分はすごさを感じます。
 …抽象的すぎる話になりましたので、話を本題に戻します。
今作に収録されている4編いずれもみずみずしい青春小説です。みずみずしいという言い方をしましたが、それは見方を変えれば青々しく、痛々しいものでもあります。どの作品もねじれた特異な設定ですが、このみずみずしく青々しく痛々しい「青春」を克明に描いているという素晴らしい共通点があります。あとがきでは「サイダー色」という言葉で今作を形容していましたが、さわやかでありながら甘すぎず、かすかに苦みが残る、という点でぴったりな言葉に感じられました。
 正直いって自分はラノベ臭い文章、セリフの掛け合いはあまり好きではありません。なんとなく恥ずかしくなってくるので…。なのでこの作品を読んでいるときもページをまくる手が鈍ったシーンが割とあります。それでも物語を最後まで読むとそんなこっぱずかしさなんて忘れてしまい、ただただ計算された切なさに浸ることになり…結局「この話好きだわ」となるんです。
 例えば表題作『百瀬(以下略』について。まずはその設定。クラスの輪から外れ、陰気で女子と縁のない学校生活を送る主人公。そんな主人公に彼女ができます。しかし、この交際はとある事情で始めた演技であり、互いに好意を抱いているわけではなかった…
 とまあこれだけでも自分が感じた『ラノベ臭さ』を感じてくれる人もいると思います。
が、作品の本質はそんなところではありません。思春期らしい葛藤、恋愛をすることの切なさ、そして登場人物たちの生き生きとした感情の動き…恋愛小説に必要なものがすべてそろっていると思います。恋愛小説を毛嫌いする人にも読んでもらいたい作品です。
 特に高校生とか、若者。等身大の魅力的なキャラクターたちにきっと感情移入できると思います・

フェルマーの最終定理(新潮社) S.シン あらすじと感想


§あらすじ
フェルマーの最終定理という言葉を聞いたことはあると思います。僕は残念ながら文系チンパンジーですので、数学というものはできるだけ避けて生きてきた人間です。しかしこの定理のすごいところはそんなおサルさんなぼくでも設問そのものは十分りかいできるというところです。

 フェルマーの最終定理フェルマーのさいしゅうていり、Fermat's Last Theorem)とは、3 以上の自然数n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない、という定理のことである。wikipediaより引用)

うーんわかりやすい。難関大学の受験数学に出ていても違和感を感じないレベルですね。
しかしこいつがとんだ曲者でして、フェルマーが発問してから350年、世界最高の頭脳と情熱を持つあまたの数学者たちをもってしても解かれなかった難攻不落の問題なのです。歴史上の数学者はその難易度の高さゆえにこの問題に惹かれ、絶望に突き落とされてきました。本著はそんな数学者たちの葛藤と、350年の戦いに終止符を打ったアンドリュー・ワイルズという男が打ち破った様々な苦難を描くノンフィクション小説です。
 ワイルズはなかなかワイルドな人生を歩んでおりまして、10歳にしてフェルマーの最終定理にひかれたこの男は、(この時点でおかしい)数学者となり、誰にも地震の研究を明かさず、たった一人でこの難問に立ち向かいます。(通常数学者たちは頻繁にコミュニケーションをとりあうのが普通でした。)長年の努力が実り、ワイルズは一度は求めていた栄光を手にします。しかしその先にあったのは”論理破綻”という地獄でした…

§感想
テーマは「数学」というこれ異常ないほどシステマティックなものなんですけど、ストーリーはなかなか熱いです。フェルマーの最終定理が証明するにはありとあらゆる数学の理論やテクニックが踏襲されており、過去の学者たちがどのようにアプローチしてきたのか、(そして失敗してきたのか)という歴史が描かれており、ワイルズが350年の数学者たちの無念を晴らす瞬間は感動的です。失敗した方法もワイルズによってしっかり活用されているので、そのへんもなんだか”熱い”展開ですよね。
 正直チンパンの僕には数学的素養を理解するのは骨が折れました…文系諸君は少し覚悟して読まなければならないかもしれません。ただこの一人の天才の栄光と挫折、そして復活は一見の価値はあると思います。数学の天才であり、数学にすべてをささげた彼の生きざまは凡人たる私たちに希望のようなものを与えてくれる気さえするのです。
 ちなみに有名な話ですが、当のフェルマー氏は自分がたてたこの問いについて、
「この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」
というかわいい負け惜しみみたいなことを書いていますが、性格的にちょっとアレなひとだったみたいです。




はじめに

はじめまして。このブログは某年間300冊本を読む方のブログに影響を受けて書き始めたものです。
残念ながら自分には年間300冊本を読むなんて人間離れした生き方はできないので気の向くままに不定期更新で続けさせていただきたいと思います。
所詮暇な大学生の書く雑文ですので、役に立つこと、実益をもたらしてくれる記事は書かないことを心に留めてください。
ただ、このブログが読書好きな、又は本を読みたい人のちょっとした手助けになれれば幸いに思います。

塩狩峠

一発めですね。別にこの作品に思い入れがあるというわけではなく、単純に直近で読んだ小説なのでこの作品を選びました。面白かったです。

まだ読んだことがない人も、読書が好きでない方にもおすすめします。とても読みやすいので。

〜あらすじ〜

舞台は明治時代。武士の矜持は徐々に忘れられ、軽佻浮薄の世の中になっていた。そんな中、主人公はなかなか芯の通った男前な性格をしている。複雑な家庭事情で、子供の頃は母親と離れて暮らしていたが、なんやかんやで一緒に暮らせるようになる。この母親が実はキリスト教徒。当時差別的な扱いを受けていたキリスト教を主人公も忌み嫌うが、様々な人との出会いや別れを通じて熱心なキリスト教徒になるというおはなし。

 

疲れた。 正直後半はかなりてきとーです。要するにヤソ嫌いの主人公がキリスト教を信じる立派な大人物になるまで〜って感じですかね。

なんか妖しい啓発本みたいですね。実際かなり宗教色の強い本なので抵抗を覚える方もいるかもしれません。

でも面白いことは確かだと思います。

物語は最後に主人公が大きな自己犠牲を行って悲劇的な結末を迎えます。これだと単なる悲劇、もしくは道徳的な寓話のような美談です。

が、単なる優等生だった主人公が一見理不尽にも思えるキリストの教えを様々な困難にぶつかりながら、解きほぐし、自分の中で受け入れていく過程を噛み締めて読むとそこには本当の「犠牲」という言葉の意味が浮かび上がってくるように思います。

見返りのない犠牲とはなんなのか。

なんか考えさせられました、久しぶりに。

長々書きましたけど力不足で伝えきれない感が甚だしいので是非本作を読んでみてください。ヒロインの女の子とかマジ健気可愛いし、章ごとにかんがえさせられるから。

 

あとどうでもいいですが、キリスト教を受け入れ完全に覚醒(?)した主人公が俺TUEEE系の主人公に見えて仕方ありませんでした。なので劣等生とかそういうラノベが好きな人にもおすすめです(適当)

 

 

こんにちは。

はじめに、このブログはタイトルの通り僕の備忘録的な何かです。

読んで得することはないと断言することができます。大学生という無駄な生き物が無駄に暇すぎて始めてしまいました。

たぶん主に本の話になります。最近は本当に暇すぎて本ばっか読んでますね。

頑張って人生の浪費をさらけ出そうと思います。