フェルマーの最終定理(新潮社) S.シン あらすじと感想


§あらすじ
フェルマーの最終定理という言葉を聞いたことはあると思います。僕は残念ながら文系チンパンジーですので、数学というものはできるだけ避けて生きてきた人間です。しかしこの定理のすごいところはそんなおサルさんなぼくでも設問そのものは十分りかいできるというところです。

 フェルマーの最終定理フェルマーのさいしゅうていり、Fermat's Last Theorem)とは、3 以上の自然数n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない、という定理のことである。wikipediaより引用)

うーんわかりやすい。難関大学の受験数学に出ていても違和感を感じないレベルですね。
しかしこいつがとんだ曲者でして、フェルマーが発問してから350年、世界最高の頭脳と情熱を持つあまたの数学者たちをもってしても解かれなかった難攻不落の問題なのです。歴史上の数学者はその難易度の高さゆえにこの問題に惹かれ、絶望に突き落とされてきました。本著はそんな数学者たちの葛藤と、350年の戦いに終止符を打ったアンドリュー・ワイルズという男が打ち破った様々な苦難を描くノンフィクション小説です。
 ワイルズはなかなかワイルドな人生を歩んでおりまして、10歳にしてフェルマーの最終定理にひかれたこの男は、(この時点でおかしい)数学者となり、誰にも地震の研究を明かさず、たった一人でこの難問に立ち向かいます。(通常数学者たちは頻繁にコミュニケーションをとりあうのが普通でした。)長年の努力が実り、ワイルズは一度は求めていた栄光を手にします。しかしその先にあったのは”論理破綻”という地獄でした…

§感想
テーマは「数学」というこれ異常ないほどシステマティックなものなんですけど、ストーリーはなかなか熱いです。フェルマーの最終定理が証明するにはありとあらゆる数学の理論やテクニックが踏襲されており、過去の学者たちがどのようにアプローチしてきたのか、(そして失敗してきたのか)という歴史が描かれており、ワイルズが350年の数学者たちの無念を晴らす瞬間は感動的です。失敗した方法もワイルズによってしっかり活用されているので、そのへんもなんだか”熱い”展開ですよね。
 正直チンパンの僕には数学的素養を理解するのは骨が折れました…文系諸君は少し覚悟して読まなければならないかもしれません。ただこの一人の天才の栄光と挫折、そして復活は一見の価値はあると思います。数学の天才であり、数学にすべてをささげた彼の生きざまは凡人たる私たちに希望のようなものを与えてくれる気さえするのです。
 ちなみに有名な話ですが、当のフェルマー氏は自分がたてたこの問いについて、
「この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」
というかわいい負け惜しみみたいなことを書いていますが、性格的にちょっとアレなひとだったみたいです。