オーデュボンの祈り(新潮文庫) 伊坂幸太郎 感想


振り返ってみると自分の読んだ伊坂幸太郎作品もこれで5冊目くらいでしょうか。
初めて読んだ伊坂小説は『重力ピエロ』でした。しかしまあ、あの時は正直「なんか気に入らないなあ…」と読了後、もやもやした気持ちを感じていました。
伊坂幸太郎の小説といえば、突き放すような、そっけないような、冷たく淡々と進むような独特の文体で、なんとなく「おしゃれだな」というイメージを最初は持っていました。
このおしゃれさというのは、スタバでマックを開いている大学生とか、インスタグラムに投稿されたくすんだ写真とかと同質の雰囲気のことでして、そういたものとは正反対の自分とは相容れない…要するに「なんか鼻につくなこれ」という感じです。
 が、この作品や『ラッシュライフ』を読んでそういった負のイメージはある程度払しょくされました。こじゃれた雰囲気でけむに巻き、肝心のストーリーは弱い…とまあ、ここまで行くといいすぎですが、ストーリーを作ること自体にも才能があることがわかり、この独特な世界観を楽しむことができるようになってきたのです。
 この作品は設定からしてシュール極まりないものです。舞台は江戸時代から「鎖国」を行っている荻島。日本のどっかの都会で銀行強盗に失敗した主人公はなんやかんやでこの荻島に訪れ、しゃべるカカシに出会います。比喩ではなく本当に人語を発するカカシです。このカカシ君は未来を予言することもできちゃったりするのですが、何者かに殺されてしまいます。「あれ?あいつ未来予言できるのに何で殺されたん?」的な疑問を解き明かそうとしているうちに第二の殺人も起こり、さてその犯人は…そしてこの島の秘密とは…
 とまあ、ざっくり概要を説明するとこんな感じでしょうか。つっこみどころが多いような気がしますが、この寓話的な世界観で「殺人事件」というあまりにもリアルでおどろおどろしい出来事を解き明かすっていうストーリーがまず気に入りました。そして何より今作はキャラクターがすごいです。島の住人たちは「しゃべるカカシ」に劣らず強烈なキャラクターばっかりだし、悪役として描かれる「城山」という人物も、これがまあ悪の化身って感じで本当に生理的に嫌悪感を抱くような野郎ですが、ものすごい魅力的なんですよね、悔しいことに。
 全体的に夢の中の出来事のようなふわふわした感じのする不思議な小説なのですが、ミステリらしいしっかりとしたロジックで、それでいて設定を生かした推理もあり、現実と非現実が交錯しているような何とも言えない余韻も得られる小説でした。
 本当に、毛嫌いせず伊坂作品をもっと読んでいればよかったです…