もらい泣き(集英社文庫) 冲方丁 感想


『もらい泣き』は筆者冲方氏が経験したことや、耳にした体験談など、「実際に起こった泣ける出来事」を30編ほど収録した短編集になります。ノンフィクションだからといって、小説と比べて地味な話ということはなく、ちゃんとじんわりとした感動を味わうことができます。(あくまで「じんわり」なので表紙の娘みたいにわんわんなくものではないと思いますが)

 「現実に起こった泣ける話」という縛りは相当大変で、作者はそれこそ泣きたくなるような苦労でストーリーをいろんな人からかき集めたようです。あまりにも話数が多いので話を絞って感想を書きたいと思います。
 この短編集で一番心に残った作品、つまり個人的なベスト・オブ・泣ける話(BON)は「鬼と穴あきジーンズ」というお話です。スポットが当たるのはアニメ制作現場の”鬼”、音響を担当する某氏です。こういった現場はいわば戦場で、些末に思われることが作品の質を左右することも多々あります。そのため与えられた期間内で、細部にとことんこだわる”鬼”の存在が必要不可欠です。アニメ制作の音響という、視聴者もあまり気にかけない、脚光を浴びることの少ないところにスポットをあて、作品が成立しているということを思い出させてくれるいい作品でした。プロフェッショナルというのはどんな部門にでもいて、その仕事姿は例外なくめちゃくちゃかっこいいのです。自分もこういう人間になりてえなあとバイトをさぼりながら思ったものです。BONとか言っといてなんですが余り泣ける話ではないです。
まあそれはそれとして、「泣ける」といっても色々ありますが、多種多様、あの手この手で泣かせにくるので、「こういう泣かせ方もあるんだなあ」と変に感心してしまうほどでした。33編もありますが、どの作品も毛色が違い、飽きもせず泣くことができるので感動に飢えてる人は読んでみてはいかがでしょーか。
 にしても表紙の女の子泣きすぎじゃないですかね。