ヴァンパイア・サマータイム(ファミ通文庫) 石川博品 あらすじと感想

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あらすじ

まず設定。ヴァンパイアが当たり前のように受け入れられている社会です。彼らは実際に血を飲んだり、夜にしか行動できなかったりと、おきまりの吸血鬼的特徴を備えていますが、血はパックに保存されたものを飲み、学校は夜中に行きます。つまり何の支障もなく、人間とヴァンパイアが共生しているのです。実際ヴァンパイアといってもほとんどの部分は人間と変わりありません。血を飲む、日光を浴びられない、あとはニンニクが苦手、くらいかな。

さて、この物語、基本は人間の主人公とヴァンパイアのヒロインの恋物語です。主人公は人間の高校生、ヨリマサ。(やや自堕落な性格)ヒロインは同じ高校ですが、ヴァンパイアなので夜中に通っているため、学校では会えません。二人は主人公の働くコンビニで出会い、学校で起きた事件を解決したりして、割とあっという間に恋に落ちていきます。

人間とヴァンパイア、という種族の違いの中で価値観の違いとか、いろいろと障害にぶつかりながらも、愛の力の前には無力だ!といわんばかりにラブラブいちゃいちゃして読者もにやにやする、そういうお話です。

 

感想

なんか自分の描いたあらすじだとバカップルの話みたいですけど、そんなことはないです。(あらすじかきながらちょっと恥ずかしくなってしまいました…)

こういう恋愛を主軸にしたライトノベルを読むとき、大体その臭さに嫌気がさしたり、(主に男の)主人公にいらいらしたりすることが多いのですが、この作品に関してはそういうことはなかったです。こういった話で主人公に好感が持てたのは久しぶりな気がします。若干やれやれ系なんですけどね。なんとなく嫌味を感じない奴でした。

 恋愛ストーリーの肝ってやつは一つは心理描写だと思うのですが、この作品は特にそれが抜きんでている、という印象は受けませんでした。ですが、男子高校生だったらまあそう考えるだろうな、とかそうするだろうな、と思わせられることが多く、飾らない等身大の高校生、という感じがして、素直に二人を「応援」することができました。(これはいろいろとこじらせている自分にはとても珍しいことです。)

 あと、面白いと思ったのは設定ですね。ヴァンパイアと人間が共に生きる社会。なんとなくおとぎ話のように感じられますが、描写に変にリアリティがありました。例えば、ヴァンパイアが普通の人の血を吸うとその人間もヴァンパイアになるのですが、そのことをこの本では「社会的リスク」という言葉で表しています。昼間活動できなくなるから、まあその言葉で正しいんですが、「ヴァンパイア」という言葉のイメージがもつ虚構性とミスマッチにリアルなこの言い方がなんとなく面白かったです。あと、ハーフの話。人間と吸血鬼のハーフは普通の人間になるらしいのですが、そういったハーフがタレントとして「ヴァンパイアあるある」を持ちネタにして、バラエティ番組で引っ張りだこ、とか。なんか実際にありそうな話のような気がしませんか?

 結局この話って「種族の違いを乗り越えるラブストーリー」っていうありふれたプロットで成り立っているんですが、その見せかたとか、語り口のおかげで、十分に面白い作品になっていると思います。青春ものとしても見事でした。題の通り、夏を舞台にして話が進むのですが、「夏」のもつ青春性を余すことなく表現できてたと思います。

 さて、こういう作品を読んだ後は突発性彼女ほしい症候群が発生します。 大学生となった今では、もはやJKを彼女にすることは実質的に不可能ということに気づかされ、取返しのつかない思いに打ちのめされています。失ったものの大きさというのは亡くしてから気づくものなのですね。本を読んでまた一つ大人になった気がします。