この闇と光(角川文庫) あらすじと感想

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あらすじ

戦いに敗れた王の娘、盲目の姫・レイアは塔の中に閉じ込められ、外に出ることなく生きていくことになる。彼女の身の回りに存在する人間は二人。父たる王と侍女のダフネだ。王は優しく、塔の中のレイアのことを溺愛し、目が見えないレイアのために本を読み聞かせたりしていた。一方で侍女のダフネはレイアを虐待とはいかないまでも、邪険に扱い、時には「殺してやる」と脅し、怖がらせていた。ダフネは次第に遠ざけられ、レイアは優しい王と二人だけの時間を過ごすことが多くなる。レイアは盲目ながら、父の読み聞かせてくれる本から知識と豊かな感受性を手に入れ、年齢には不釣り合いなほどの賢さを得る。依然として彼女は塔の中に閉じ込められたままだったが、優しい父と本に囲まれて満ち足りた日々を過ごしていた。

 しかし、この楽しい日々はある日突然崩れ去ってしまった。初めて外に連れ出され、視力を取り戻したレイアは父や自分の知っている世界について、信じられない真実を知ってしまう。

 

 

感想

あらすじからは「塔の上のラプンツェル」のようなファンシーな世界観が伺えますが、この作品は「ミステリー」です。始まり方はおとぎ話のそれなのですが、話が進むにつれて徐々に違和感を覚えるようになっていきます。後半になると種明かし。寓話的世界が一変し、残酷な現実がむき出しになります。

 ぶっちゃけネタバレを含まないように語るのはとても難しいです。本を読む際に「どんでん返しがある」ことを知っているかどうかによって感じ方も変わってくるので。しかしこの作品に関しては「どんでん返しがある」とわかったうえで読んでもらっても全く問題ないように思います。それはやはり構成のうまさだと思います。ダフネの存在を除き、白々しいほど穏やかな前半から、中盤、徐々にそのメッキがはがされていくような恐怖、そして衝撃的な種明かし。息をつかせぬ展開で、自分は寝る間も惜しんで読み上げました。

 ラストはなんとなく切ない気持ちになりました。どうして切ないかはネタバレなしでは書くことができがないのが残念ですが…切ないだけではなく考えさせられます。タイトルの「この闇と光」の意味…何が「光」で何が「闇」なのか。読後も強烈な物語世界の余韻からなかなか眠れませんでした。

 自分が最も感情移入したキャラクターはレイアの父の「王」です。この本を読んだ後そういう感想を持つ人はあまりいないと思いますね。正直いいやつとは程遠い人間です。ではなぜ自分が彼にひかれたのか。それは彼の人間性に自分と重なる部分を感じたからです。

 

 自分も時々ですが、彼のように自然に他人を「俗っぽい」とか「醜い」とかいう理由で見下してしまう時があります。(もちろん自分のことは棚に上げて)そしてそんな自分が嫌になり、誰ともかかわりたくない、人間関係めんどくせーとやや厭世的な気持ちになることも。理想が高いといえば聞こえがいいですが、結局は現実に順応するには幼すぎる、要は自分はガキであるという事実に最近になってようやく気付いてきました。教室で大声で笑う人とか、上の立場の人にやたらと媚びる人とか。そういう人間臭い汚さを拒絶してしまう。そういう人間を見下して「自分は違う」と心理的バリケードを無意識に張ってしまう。じゃあ自分はどうなのか。そういった人間を見下すことができるほど優秀な人間なのか。こういった問は自分のような人間には直視したくない、しかし不可避の問いです。彼の生き方は自分にこの「問い」を、「汚い」潔癖さを改めて突き付けているようで、正直痛いところを突かれたなーという感じがしました。

 長文の上自分が足りくっさ。収集つかなくなってきたのでここで終わりたいと思います。一見穏やかな世界の裏には暗い真実が隠されている…みたいな話が好きな人はぜひ読んでみてください。